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ヒヤリハット事例 プレミア版サンプル

母親がテオドール錠を粉砕して子供に服用させ、興奮・手の震え

UPDATE:2007.08.22

1 どのような医療機関ですか
開局薬局
2-4. 投薬/服薬指導をした薬剤師の経験年数
5 年
3-3. 処方の内容
11 歳、男児、気管支喘息
<処方1> 小児科

テオドール DS 20% 1 g(製剤量) 1 日 2 回 朝夕食後 14 日分
ムコダイン細粒 (500 mg/1 g) 2 g(製剤量) 1 日 2 回 朝夕食後 14 日分


<処方2>  小児科

テオドール錠 (100 mg) 2 錠 1 日 2 回 朝夕食後 14 日分
ムコダイン錠 (500 mg) 2 錠 1 日 2 回 朝夕食後 14 日分

3-4. 何が起こりましたか?
  • 喘息で<処方1>の散剤を継続服用中であったが、年齢も大きくなったことなどから<処方2>の錠剤へと剤形が変更になった。
     
  • 後日、<処方1>に処方が戻ったため、患児の母親に理由を聞くと、子供が「興奮したり、手が震えたりした」との訴えを受けた。
3-5. どのような過程で起こりましたか?
  • 喘息で<処方1>の散剤を継続服用中であったが、年齢もある程度大きくなった事と一部負担金、服薬時に 1 回で飲む薬の嵩(かさ)等の関係から今回より<処方2>の錠剤へと剤形が変更になった。
    ※ 一般的な調剤薬局での一部負担金は<処方1>で約 1,100 円、<処方2>では約 700円程度となる。
     
  • 後日、<処方1>に処方が戻ったため、患児の母親に理由を聞くと、子供が「興奮したり、手が震えたりした」との訴えを受けた。
     
  • 母親からさらに詳しく話を聞くと、服用薬が錠剤に変更となったが、今まで粉薬しか服用したことがないので、テオドール錠とムコダイン錠を粉砕して子供に飲ませたことが判明した。「興奮したり、手が震えたりした」との訴えとテオドール錠の粉砕との因果関係は不明であるが一因の可能性がある (<その他特記すべきこと>参照) 。
3-6. どのような状態 (結果) になりましたか?
  • 医師に詳細を連絡した結果、今後は粉砕せずに服用することを指導して、再度の錠剤の処方(<処方2>)に戻った。その後、患児から有害事象の訴えはなく、<処方2>の服用を継続している。
3-7. なぜ起こったのでしょうか
  • 薬剤師は、テオドール DS からテオドール錠に剤形が変更となったときに、錠剤を服用可能かどうかの確認を行わなかった。
     
  • 薬剤師は、テオドール錠は徐放性製剤であること、粉砕してはいけないことを説明しなかった。
3-8. 二度と起こさないために、今後どう対応しますか?
  • 特殊な製剤加工の薬剤については、その特徴をよく理解しておく。今回の事例を受けて、テオドール錠の製剤加工や分割や粉砕がテオドール血漿中濃度について調査したところ、テオドール錠は錠剤中の徐放性顆粒をつぶさないように砕いたとしてもかなり徐放性は失われることが示されている[文献 1),2)] (<その他特記すべきこと>参照) 。
     
  • 処方薬の剤形が変更となったときには、必ず服用可能かどうかや変更の理由を確認し、服用時の注意点も説明する。
     
  • 服用法によって、製剤特性が変化してしまう医薬品を交付する際には、必ず製剤学的特徴を分かりやすく説明し、注意点を伝える。今回のような徐放製剤を交付する際には、割ったりつぶしたりせずに服用するよう説明する。
3-9. その他特記すべきこと
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  • テオドール錠の粉砕によって有害事象が発現したのか?
    テオフィリン製剤の副作用として、振戦(0.1〜5%未満)や神経過敏(興奮、不機嫌、いらいら感)(頻度不明)が挙げられている。これは、患児の母親が訴えた「興奮したり、手が震えたりした」という症状と一致している。しかしながら、テオドール錠を粉砕したことで、これらの症状が惹起されたとする文献報告は見あたらず、販売メーカーにおいても同様の報告は把握していないとのことであった。よって、本事例での訴えが、テオドール錠の粉砕によって生じた有害事象であるかは不明であるが、一因の一つと充分に考えられる。
     
  • テオドール錠の構造的特徴
    テオドール錠は、白色・表面が不定形の斑点状を呈する割線入りの徐放性錠剤である。テオドール錠はテオフィリンを賦形剤とコーティング剤とを用い、層状に重積した多数の徐放顆粒とつなぎ部分からなる(図 1)。次項の図 2図 3 に示すように、顆粒部分を潰さないように軽く砕いても徐放性は失われる。別の実験で、つぶして取り出したテオドール錠の顆粒部分とつなぎ部分それぞれの放出速度を測定した結果、つぶさない場合と比較すると、つなぎ部分だけでなく、顆粒部分からの放出速度も顕著に増大することが認められている[文献 3)]。テオドールを乳棒で砕く際に、顆粒の最外層の白い半透明の層がはがれ落ちることが観察されたため、これにより、顆粒からのテオフィリンの放出挙動に影響を及ぼしているものと考えられる。
    乳棒での粉砕では、非常に軽い粉砕でも徐放性はほとんど失われる一方、テオドール錠の医療用添付文書(適用上の注意)には、「本剤を飲みにくい場合には,割線で 2 分して服用するよう指導すること」との記載があり、半錠に分割した場合には、吸収速度が錠剤投与の場合とほぼ等しいことが報告されている。
    さらに 1/4 や 1/5 に分割した場合でも、乳棒で砕く場合と比較すると徐放性が残っていることが示されている。しかしながら、現在はテオドール顆粒や DS が発売されており、錠剤の服用が困難な患者に対しては、分割ではなく、これらの投与が推奨される。
     
  • テオドールの粉砕がテオフィリンの血中濃度推移に及ぼす影響
    テオドール錠を粉砕、あるいは軽く砕いた時のテオフィリン血中濃度を比較した以下の 2 つの臨床試験に示すようにテオドール錠は錠剤中の徐放性顆粒をつぶさないように砕いたとしてもかなり徐放性は失われることが示されている[文献 1),2)]。
     
    <臨床試験1>[文献 1)
    気管支喘息患者 9 名を対象として、テオドール錠、軽く砕いたテオドール錠、徐放性テオフィリン顆粒の 3 剤形をテオフィリンとして平均 10.7 mg/kg 経口投与した際の血中濃度を図 2 に示した。表 1 には 3 種類の剤形間におけるテオフィリンの体内動態パラメータをまとめた。3 種類の剤形間で AUC に有意差はみられなかった。Cmax は軽く砕いたテオドール錠で高い傾向が認められたが、有意ではなかった。なお、粉砕によって、tmax は短縮した(表 1)。
     
    <臨床試験2>[文献 2)
    健常人 8 名を対象として、テオドール錠を粉砕、軽く粉砕、徐放性テオフィリン顆粒、錠剤の 4 剤形をテオフィリンとして 200 mg 経口投与した際の平均テオフィリン血中濃度の推移を図 3 に示した。粉砕による AUC および Cmax には 4 剤形間で大きな変化は認められなかったが、粉砕によって、テオフィリンの吸収は顕著に速くなり、血中濃度の立ち上がりも速くなった(表 2図 4)。各剤形投与による総吸収量に対する吸収率を求めた図 3 から、粉砕した場合は 3 時間までに吸収が 75% に達していることが分かる。
【参考文献】
1) 名加真樹ほか、23(8): 1617-1620 (1987).
2) 中野眞汎、中園直子、製剤工場、7(3): 225-229 (1987).
3) 里見公義ほか、135(5):423-423 (1985).

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